【幸せは変わらない生活】

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12階のボタンを押して、エレベーターのドアが閉まる寸前だった。 「待ってくれ!乗ります!」 俺はすぐに『開く』ボタンを押す。 「わりぃな!ここのエレベーター来るの遅いからよ」 息をきらせながら駆け込んできたのは同僚のヨウヘイだった。 「朝から全力疾走とは、若いねぇ」 「何言ってんだよ。タケルも俺と同じ28じゃねえか。運動しねえとすぐに腹が出るぞ」 そう言うヨウヘイは俺より若干、腹周りに余分な肉がつき始めていた。 「それよりかさ、今朝のニュース観たか?」 「いや、観てない」 朝起きたらルミが片方のピアスが無いと騒いでいたので、それを探すために朝食すら採っていない状態だった。 ピアスは結局ソファーの下にあったからまだ良かったが。 「なんだ、観てないのか」 ヨウヘイはやれやれという仕草をしながら12階でエレベーターを降りる。 「なんかやってたのか?」 俺はマフラーをほどきながら尋ねた。 「また出たんだとよ、ペット殺しの怪物さんが」 「またか、今月に入って何件目だよ。警察も何やってんだか…」 「そのうちペットだけでなく、人間も襲われたりして」 「そりゃ、シャレにならないな」 俺は自分の会社のドアを開け、先にヨウヘイを通した。 「サンキュ」 ヨウヘイは片手を挙げ、自分の席に向かう。 俺も自分の席へと向かい、途中先輩の森口さんとすれ違ったので挨拶した。 席に着いてすぐにパソコンを起動させる。 パソコンがたちあがる間にマフラーとコートを脱ぎ、背もたれに掛け、そのままコーヒーを取りにいく。 席に戻ると丁度パソコンがたちあがる。 これがいつもの俺の仕事の始まりだ。 メールを開きチェックする。 俺の会社はいわゆる『リサーチ会社』というやつだ。 いろんな企業からリサーチの依頼がきて、それを調べ上げる。 そういう会社だ。 ‥
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