過去の男

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弟は‥ 「涙をいっぱい溜めながら それでも、笑顔で 家族に礼を言って 別れて行った…」 と、最後は浩樹の涙声に 萌夏のすすり泣く声が重なった。 携帯からは、雑踏の音もしていた 萌夏には浩樹が、外をあても無く 歩いているのが分かった‥ 「待ってて‥ 今、どこ? すぐに行くから!」 萌夏は厚手のニットコートと バッグを掴むと 家を飛び出して行った。 大切な弟を連れ去られた 寂しさ‥ 父親への失望‥ 母親への憎悪‥ 自分の無力さ… いろんなものが 携帯の向こうから 溢れるように押し流れてきた。 待ってて。 やけを起こして‥ また、無茶しないで! 萌夏は祈るような気持ちだった。
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