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ものほしげな女
タケルが
あたしの匂いが
好きだと言ってくれてから‥
シャンプーや、
ボディソープの香りに
凝るようになった。
「香りを、変えてみたの」
そう言うと
タケルは
必ず‥
『どんな香りよりも
萌夏の肌の匂いのほうが好き‥』
って、言って
首筋や‥肩や、背中‥
色んなとこに鼻と唇を押しつけて
キスしながらクンクン嗅いだ。
肌の手入れをしてから
綿麻の、肌にさらっと馴染む
シャツワンピースを着る。
風呂上りの定番‥
よれよれの洗いざらしたTシャツに、
色気のない短パンは
最近、身に着けていない。
濡れた髪の雫を、タオルで
拭き取る。
タケルが、優しく掻き上げたり
撫でてくれるのが嬉しくて…
髪も、以前より伸ばして
肩のラインより少し長くなった。
行きつけの美容室でも
最近、物腰が柔らかく
綺麗になったと褒めてもらったりする。
カーテンも、掛変えて
部屋の雰囲気も華やかになった。
何処かしこに‥
男に愛されて暮らす女の匂いが
満ちている。
そう‥
あたしは、タケルに
愛されて暮らしていたのだ。
家事をしている時、
髮をとかしている時、
着替えをしている時、
ふいに‥
後ろからギュッと
抱きしめられる感触を
身体が覚えている。
タケル‥貴方とこれからだって
ずっと、一緒にいたいよ‥‥‥だけど。
何処にでもある‥男と女の関係。
‥‥‥でも、アタシ達ふたりの関係は
きっと、誰にも信じられない稀有なものだった。
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