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「……アイナ様は、お元気ですか、父様?」
「ああ。……聞きたいことは、それだけか?」
「はい。それだけ聞ければ、十分です……」
父と妹が元気なら、それでいい。と、ヴィルヘルムは内心で呟いた。
「……今日は、ヴィルの生まれた日でもあったな」
「ええ。アイナと僕の生まれ日は、同じですから……」
「…………」
父は一瞬黙ると、懐から意匠の凝らされたチョーカーを取り出し、ヴィルヘルムにそれを手渡した。
それは黒革を生地にして造られたレザーチョーカーで、全体に金細工が施されたものだったが、貴族が身につける装飾品としては安っぽく、職人が造ったにしては粗いものだった。……これはきっと父の手作りなのだろう、とヴィルヘルムは思った。
「……私からの、最後の餞別だ」
「……ありがとうございます、父様……」
「……、私のことを、恨んでいるか?」
「まさか」
何を馬鹿なことを、と言わんばかりにヴィルヘルムは即答した。
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