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「父様は僕を大切に育ててくれました……感謝こそすれど、恨むなんて……。まあ、母や四大貴族の後継ぎのことは恨んでますが」
「アイナのことは、どうだ? あいつはお前のことを嫌って―――」
「嫌われていても、アイナ様は僕の大切な妹です。……それに、アイナ様が僕を嫌う理由は、わからなくもありませんし」
「……そうか」
父はランタンを床に置くと、ヴィルヘルムに向けて両手を翳し、早口で詠唱を紡いでいく。
魔術の発動には古代言語と呼ばれる特殊な言語を用いるのだが、そのような学を積んでいないヴィルヘルムには、詠唱の内容がどんなものなのか理解できなかった。
「―――これからお前を、森へと転送する。最後に何か言うことはあるか?」
「……ひとつだけ、あります」
ヴィルヘルムは小さく息を吐くと、精一杯の力強い声で言う。
「―――必ず、戻ってきますから。父様と、アイナ様に逢いに」
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