第一章:生き様と信念

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第一章  緑豊かな大陸『ラティア』、その北に位置するセルヴィ地方。  その地方の田舎町に、荒れ果てた避難壕があった。元々は立派な設備を整えた避難壕だったのだろうが、今は魔物の襲撃を受けて、地下に埋め込まれたあばら家にしか見えなかった。重厚なコンクリートで造られていた壁は粉々に砕け散り、至るところに血糊がべっとりとこびり付いている。  そんな避難壕に、幼い少女が一人いた。十ニ歳に成り立てたばかりのような幼さの残る彼女は、避難壕の片隅で息を殺して震えていた。  少女は小さな短剣とお守りを握っていた。短剣は鉄製の素っ気ない代物で、お守りも粗末な材料で造られている安っぽいものだったが少女にとっては唯一と言っていいほどの宝物だった。かつて少女が憧れていた少年から貰ったお守り。両親が殺され、ひとりぼっちになった少女。  少女はナイトメアだった。  人間やエルフの間で生まれる突然変異種族。頭部に小さな角があり、身体に痣があり、どの種族からも嫌われることが多い忌み子。そのため、ナイトメアを生んだ親はその赤子をすぐに捨てるか殺すことが多いのだが、しかし少女の両親はそれをせず、立派に育てることにした。当然ながら他の村人から冷たい視線を受けることとなり、少女も村の子供から虐めを受けることが多々あったが……それでも、少女は両親と一緒にいられるだけで幸せだった。 .
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