Aの箱庭

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それは夕方、学校からの帰り道の事。  ─浅月…歩クン、…ですネ?─ いきなりかけられた聞き覚えのない男の声に、僕はつい振り返ってしまった。 そこに現れた全身黒のいかにも怪しい変な男。 突然現れたと思ったら、たまに片言な発音を混じらせながら、いきなり訳のわからない事を言い出した。 正面から見ると、鍔が異様に斜めになるような作りの変な黒い帽子に、黒に近い灰のタートルネックに黒のロングジャケット。 ジャケットの下からは黒いブーツが伸びている。 手には白の手袋、そしてステッキ。 いかにも怪しい。 今更だが、振り向かなければ良かったなと後悔する。 これは明日学校に報告するべきなんだろうか。 『帰路で変な勧誘みたいな事しだす変態が現れた』と。 改めて下から上に視線を流すと、これがトレンチコートで、露出狂の変質者だったら、確実に『ハレンチコートの君』とかアダ名が付きそうな格好だ。 口元は先程から絶えずにやりとでも擬態語が当てられそうな感じで笑っていて、 跳ね癖のある短めの銀髪から覗く目は、帽子で隠れた左目がどうなっているかは分からないが、紫色で、光を宿さぬ虚ろなものだった。 「ああ──こレ。左は見えないンですヨ。色が変わってるモノでスから、目立たないヨウこうして隠シてルのですヨ」 ──いや、隠さなかろうが、その格好なら十分変に目立つって。 心の中のツッコミは、やはり届く筈もなく、男は平然とした顔で、帽子の鍔を軽く押し上げた。  image=442883711.jpg
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