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昼下がり。
小学校が放課されて小学生たちがそれぞれの家路に着いていた。
真っ黒なワンピースに真っ黒の髪の毛、真っ白の肌。その少女もまた、家に帰宅する最中だった。
「あっ!」
手にしていた体操服を入れた袋を後方から走って来た男子生徒たちが引ったくった。
「返して!!」
少女が声を上げて男子生徒たちを追いかけた。
「嫌だね。誰が返すか!気持ち悪いんだよ魔女!!」
“魔女”と言われて男子生徒たちを追いかけていた少女の足が止まった。
「魔女じゃないもん・・・」
少女はその場にしゃがみ込んだ。
「やべぇ、泣いたか?」
男子生徒たちは少女に向けて袋を投げて逃げるようにその場を去った。
「魔女じゃないもん・・・真珠だもん」
涙を溜めた目の前に烏の様に黒い蝶が横切って行った。
「蝶々?」
蝶は少女の腕に一度止まってから再び飛び立った。
少女の頭上をヒラヒラと舞い、風に飛ばされるようにして高空へ上がった。
少女は一人でその黒い蝶を見上げていた。
*
「ちょっと!ヤダッ・・・魔女が笑ってるよ」
―別に笑ってないし
「おい!魔女が怒ってるぜ」
―別に怒ってなんかない
ただ、人より多少無表情なだけだ。
花籠真珠 17歳。
“魔女”と呼ばれて11年目。人より目つきも悪く、無口なおかげで自分の状況を悪化させていることはよくわかってる。
しかし今更直すこともできず、ここまで来た。
友達がいないことに不安はない。
帰り道。常に一人で歩いてきた道である。
途中、足が止まった。いつもなら素通りするはずの場所。思わず空を見上げた。
赤く染まった高空に黒い小さな影がヒラヒラと見えた。
「・・・蝶?」
不規則に飛び回っていた蝶が羽を進めた。
「あ・・・」
真珠は蝶を追いかけた。突然自分の中に現れた使命感と不思議な感情のまま足を進める。
頭上ばかり眺めて歩くのに、不思議と物体にはぶつからない。
そしてある時、蝶が降下してきた。そのまま目の高さの校門に羽を休めた。
「ここって・・・」
小学校だった。
「なんで・・・」
不思議に・・・不安に思った。
校門の上を見たが蝶はすでに姿を消していた。
「・・・・・・」
足を校舎に向かわせた。古い校舎に足を踏み入れるとかカビ臭さが顔面をおそってきた。思わず眉を顰める。
玄関には昔と同じ並びの靴箱が並んでいて、土足との境界線に木の板がひかれていた。足を置くと軋む。
昔と何ら変わりない。
「あ・・・」
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