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目線の先には来客用のビニールのスリッパが置かれていた。
カビ臭く、埃っぽい玄関にピカピカのスリッパ。
疑心暗鬼。ゆっくり足を入れる。
首を傾げると視界の端に階段。上がった。
手すりに手を置くと埃が手に着いてきた。慌てて手を離し、駆け足で上っていく。
踊り場まで来ると、下を見下ろした。
「こんなに汚かったっけ?」
古い校舎ではあったがさすがにもう少し掃除はされていたはずだと首を傾げた。
さらに足を進める。
昔使っていた教室の扉が見えてきた。
幼い頃の記憶が目の前に広がりはじめた。
*
「真珠、何読んでるの?」
放課後、空に向かってのびるビル郡の合間に日が沈みかけている。
窓際で本を読む少女の前に青い瞳をした少年が顔を出した。
窓から入ってくる光よりキラキラ輝く金の髪。
「・・・“オズの魔法使い”」
「あ!それなら僕も読んだことあるよ。おばあちゃんの家で読んだんだ!って言っても英語だったんだけどね」
苦笑しながら少女に言う。
「・・・」
無言。
「日本語の本も同じこと書いてあるのかな?」
「・・・読む?」
「貸してくれるの!?ありがとう!」
「別に・・・今、読み終わったから・・・」
*
「いきどまり・・・」
階段を上り詰めていくと屋上へ出る扉にご対面した。
しかし扉の前にはいくつもの机やいすが重ねられていて手が届かない。
仮に届いたとしても机の脚の間から質の悪そうな南京錠がチラチラ顔を見せてきて、とても開きそうな気配はしない。
ため息を漏らして階段を降りた。
その後も「音楽室」「図工室」「職員室」など他諸々の教室を回ったが何処も鍵がしっかりかけられていた。
「・・・妙ね」
不可解に感じて廊下で足を止めた。
何処も鍵がかかっていて入れない。何年も掃除されてない様な埃の溜まり方。まるで人の気配が無い校舎・・・だが何故、玄関は開いていた。
まるで・・・
*
「あ・・・蝶々」
「カラスアゲハだね」
学校の誰もいない図書室に一羽の蝶々が舞い込んできた。
黒い髪の少女と金の髪の少年は首を上げた。
図書室を彼方此方に飛び回る蝶を二人は目で追う。
「・・・よく知ってるのね」
「う~ん、この間図鑑読んだんだよね」
「へぇ・・・」
会話を交わしながらも珍しい漆黒の蝶姿を瞳は追いかける。
「蝶々、綺麗だね」
「・・・うん」
途端に蝶が二人の間を通り道にした。目が合う。
「「あ・・・」」
少女は慌てて本に目線を戻す。
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