序章

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リシェルは、闇の中で目を醒ました。 何か、恐ろしい夢を見ていたような気がする。 悪夢の残滓をまだ心にまとわりつかせたまま、長い睫を震わせて、リシェルは小さくため息をついた。 天窓から射す蒼い月の光が、繊細なその美貌を宵闇に白く浮かびあがらせている。 ぱっちりした紫色の瞳とスッと細い鼻梁、小さな薄い唇……ゆるやかに波打つ長い金髪に縁取られたその顔は、可憐という言葉がぴったりの、愛らしい容姿だった。 まだ、ニ十(はたち)をいくらも過ぎていないだろう。 ほっそりした肢体に、白いチュニックを纏っている。 思わず手を伸ばして触れたくなるような、陶器のような白い肌は、リシェルが舞姫族の最後の生き残りであることを示していた。
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