序章

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「クーがいないわ」 小さくつぶやいて、リシェルは寝台の上に身を起こした。 彼女のたったひとりの友達、妖魔族のクーの姿が見えなかった。 妖魔族といっても、空を飛べるぐらいで魔法は使えない。 「クー?どこ……?」 リシェルは不安な眼差しを周囲に走らせて、寝台を抜け出した。 がらんとした広大な洞窟の中に、小さな友の気配はない。 素足のまま、リシェルは住居にしている洞窟を出て、鬱蒼とした森の中に目を凝らした。 三つの月が煌々と周囲を照らしているので、森の中は明るく、遠くまで見通せた。 しかし、クーの姿はどこにも見当たらない。 「クー!どこにいるの?」 強い不安が胸を締めつけ、リシェルは大声で呼んでみた。 その声に呼応するかのように、草を踏む足音がした。 リシェルがハッとしてふりむこうとした時、太い腕が首に絡みつき、ギリギリと絞めあげた。
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