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「――どうだかね」
「好きなら、好きだっていいなよ」
「当たって砕けるのはちょっと遠慮したいかな」
これでもプライドだけは一丁前に高いのである。
そんなみっともないマネは他の誰かが許しても、私が許さない。
「それならオマエは多分、アイツのこと好きじゃないんだと思う」
「そうかもしれない。今は迷走中なんだ」
私は誰かを好きになった経験が他にないから、判断ができないのだ。
でも彼の隣にいつまでもいたい。彼の笑顔を遠くで見ている自分がどうしようもなく嫌いだ。
アイツはあの子と結婚するのだろう。気が早くて、中学生みたいだけれど、私はそう確信している。
幸せな家庭を築いて――そして私は過去になる。
毎年一緒に花火を見上げていたこととか、家出して秘密基地で一夜を過ごしたこととか。
私たちの全てが、タダの想い出になっていく。
大人っていうのはそういう生き物だ。利口で、自分を顧みないで、どうしようもなく大人で、自分の感情さえ素直に口にできなくなっていく。
ああ、なんて残酷なのでしょう。
「――嫌だなぁ、ソレ」
浮かんできたのは涙ではなく苦笑で。
こんなときに泣けない自分はとことん捻くれているなーっと客観的に観測して。
彼にとって私が想い出になるように、私にとっての彼も、今日を過ぎたら想い出になってしまう。
きっと疎遠になる。だって東京だ。新幹線で一本とはいえ、一秒とかからずに声が届くとはいえ、その物理的な距離は大きい。
絶望的ともいえる四百キロ。心の距離なんて関係がないんだ。
「ああ、そっか……」
嫌なんだ。アイツと離れてしまうことが。過去に変わってしまうことが。
アイツをただの想い出にしてしまうことが、たまらなく嫌なんだ。
私にも彼氏ができて、彼にも彼女がいて。そういう未来がいつか絶対に訪れる。
それはもう確定事項で。でもきっと、このままでは私は大人の階段を上りきれない。踏み外して、ガラスの靴までなくしてしまうのだと思う。彼との想い出まで、濁ってしまう気がして。
「花火馬鹿」
殆ど反射的にそんなことを口走っていた。
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