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「え? それ俺?」
「私はあんたのことが結構、嫌いだった」
「エー」
「でもきっと、打ち上げのときは砕け散ったあとだから、慰めの言葉をよろしくお願いします」
そして私は走り出した。脳裏を流れる走馬灯――あれ、走馬灯? 彼と過ごした日々が車窓から眺める景色のように流れ去っていく。
バレンタインデーにはお決まりの鉛筆チョコを上げていたり。
今年はそれが渡せなかったこととか。
クリマスにはプレゼント交換したり。
真冬だっていうのに自転車の二人乗りで隣町の海に行ったり。
二人で歩いた河川敷とか、一緒にカブトムシを探しにいったあの山とか。
そういったアイツとの日常が、楽しかった。
彼女に告白されたことを報告してきたり、デートの練習だといって町中を歩き回されたり、私の知らない笑顔を彼女に見せたり。
何度殴ってやろうかと思ったかもう忘れてしまったけれど、これだけは断言できる。私は、アイツが大好きだった。世界中の誰よりも、愛していた。
だから――私は彼の姿を探す。およそ一秒。
アイツの黒髪を視界が捉えて、酸素を肺いっぱいに吸い込んで声を出す、その一瞬。アイツが振り向いて、互いに視線が交錯した。
ああ……、と取り込んだはずの空気はどこからか抜けていく。
その瞬間、全てを悟った気がした。錯覚なのかもしれない。いや、十中八九ただの妄想だ。でもわかってしまったのだ。
アイツは私のことが好きなのだと。思い上がりも甚だしいけれど、そう思ってしまったのだ。
アイツは私が好きで、私もアイツが好きで。
でも同じくらい、いや、それ以上に、彼女が好きなのだろう。
私たちは変わってしまった。変わらずには、いられなかった。
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