アイツと私

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「――ねぇ?」  アイツを呼ぶのに名前は必要ない。  阿吽の呼吸というかテレパシーというか、以心伝心というか。そういった非科学的なもので私たちは繋がっている。 「どうしたー?」  全てを理解したような顔で、彼は今日も微笑む。  相変わらずの屈託のない笑顔で。私の胸を締め付ける。 「あんたと一緒にいるの、嫌いじゃなかったデス」 「ソウデスカ」 「ソウデスヨー」 「俺も、嫌いじゃなかったよ」 「それじゃあ、また何年後かに、笑い話でも。お幸せにね」  数時間後には顔を合わせるのだけれども、きっとこうやって言葉を交わすのは、また何年後かの話になるのだろう。  そのときお互いに笑い合えたらいいなって思う。  こうして私は大人になっていく。けれども大人の階段を上りきるにはまだまだ時間がかかるみたいだ。  溢れた涙と傷む胸を抑えて、私は歩き出す。  その道の先が、またアイツの道と交わっていたらいいな、と微笑みながら。   終わり。
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