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ああ、そういえば…
輝元が頭を掻いた。
さっき、次の間に声を掛けておいたのだ。
ところが叔父上から、厄介な話を聞かされて、すっかり興が冷めて忘れていた。
「もう、用は済んでしまったのだがな…まあ良い。」
輝元は思わず苦笑いをこぼした。
「酒を持て。飲み直しだ。」
「むぅう…」
神西元通が唇を噛んだ。
視線の先には、雪を被った杉木立が寒々と広がっている。
その向こうがわでは、幾筋かの黒煙が立ちのぼっていた。
仏頂面を浮かべている神西元通の元へ中村春続が馬を寄せる。
「こちらです。急ぎましょう。」
「おお!」
神西元通と中村春続が、雪と泥とを跳ね上げて、馬を駆けさせてゆく。
二人に引き続いて、馬上衆が6騎と足軽5~60人が駆け出した。
街道を逸れた一塊の軍勢は、緑の尖った葉を白く輝かせている杉林に走り込んだ。
「急げ急げえ!」
森閑とした林中に神西元通の声が響く。
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