輝元

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「どうであったか?」 元通が、厳しい目を徒歩武者に据える。 「村の衆はおったか。」 「いえ、おりませぬ。」 「なにい!一人もか?」 「はい、おるのは死人ばかりでございます。」 「くっ…。して、敵はどうしておる。」 「…それが、既に立ち去っておりまする。」 「むむむ、分かった!ワシも参る!」 元通が馬を進めると、周りの足軽達も雪を踏んで動きだす。 かつて村であった焼け跡は、血と泥にぬかるんでいた。 焼け落ちた民家の庭先を過ぎると、男が一人突っ伏している。 この家の農夫なのだろうか、真っ白な雪を真っ赤に染める血溜まりを作って俯せていた。 目を転じると、炭のように焦げた柱の下には、黒ずんだ顔に苦しげな口を大きく開けた骸が、両手を胸の前に引き付けて、きつく拳を結んで転がっている。 「なんと酸鼻な…」 元通が食いしばった歯の間から、言葉を搾り出す。
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