輝元

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「先回りしてみよう。もっとも、うまくゆくかどうかは、運次第だが…」 「うむ、分かった。案内を頼む。」 「ああ、敵が街道を通っていれば、何とかなるだろう。」 地理に明るい中村春続が、先頭に立って移動をはじめた。 道など無い、一面の雪野原を進むのである。 先頭を歩く者は、一歩毎にくるぶしまで埋まりそうな雪を踏んで歩く。 雪を踏み固めて、人一人が通れる道を付けなくてはならないからだ。 足先の感覚は、とうに無くなっていた。 「前の者が付けた踏み跡を踏んで歩け!」 神西元通の胴間声が、あたりに響く。 「皆、苦しかろうが頑張ってくれ!」 「おお!」 ハッ ハッ ハッ ハッ 先を歩く者達の息が上がり、額に汗が浮きはじめた。 頃合いを見て、元通が号令を下す。 「先頭を交代させよ!」 「ははっ!」 先頭の足軽が立ち止まり、後続の者がそれを追い越して前へ出ようと、黙々と歩を進める。
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