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城内の大広間には、正装した武士達がズラッと列んで腰を下ろしていた。
あたりは粛然とした空気に包まれ、しわぶきの一つも聞こえて来ない。
各々の前には、酒肴を配した膳が据えられていたが、それに目をやる者は誰もいなかった。
皆、背筋を真っ直ぐに立てて、顔を前に向けている。
そこへ直垂れ姿も若々しい、毛利輝元が姿を現した。
皆が、サァッと一斉に居住まいを正す中、欄間で高く仕切られた上座に腰を下ろす。
すると家臣一同を代表して、宍戸隆家が発声した。
「新年祝賀の儀、滞りなくお済ませになりましたるよし、家臣一同、心よりお喜び申し上げ奉りまする。」
「うむ。こんにちの毛利家あるは、皆の働きによるもの。これからも忠勤に心掛けよ。」
「ははっ!まことに恐れ多きお言葉にございまする。」
みなが一斉に平伏する。
輝元が、それをぐるっと見回してから続けた。
「本日は、粗餐であるが用意させてある。みな、ゆるりと過ごされよ。」
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