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「は…ははっ!ありがたき幸せに存じます。」
天正2年 1月
安芸国 吉田郡山城
新年祝賀の儀を終えた毛利輝元は、大広間に重臣達を集めていた。
一席設けて酒肴をふるまい、日頃の労苦をねぎらおうというのである。
重臣達の醸し出す荘重な空気の中で、瓶子は主君から臣下へと三度ほど巡り、歓を極めてこの宴は散会となった。
家臣らに見送られて、大広間を後にした輝元は、冷えびえとした大廊下をゆったり歩みだす。
頬をなでる冷たい空気が、ほろ酔い加減の輝元には、ひんやりと心地よい。
トントントントン
丁度、表御殿から奥御殿のつなぎ廊下へ向かうと、忙しい足音が背後から近づいて来た。
輝元が振り返ると、廊下のすみから、急ぎ足の武士がこちらへやってくる。
近習が、輝元と近づいて来る武士の間に身体を割り込ませた。
「殿の御前である!ひかえよ!」
「ははっ!」
武士は、顔を俯けてその場にひざまづく。
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