265人が本棚に入れています
本棚に追加
が、輝元に聞こえるように声をあげた。
「先程から小早川左衛門佐殿が、別室にてお待ちでありますが、如何はからいましょうや。」
この無礼を咎めようと、近習が口を開きかける。
ところがそれより早く、輝元が足元の武士に声をかけた。
「おお!叔父上が…。」
そう言って輝元は、当惑気味に眉根を寄せてしまう。
この厳しい叔父と顔を合わせる時は、いつも何となく気詰まりを感じてしまうのだ。
それでも、再び目をあげた時には、普段通りの落ち着きを取り戻している。
そして、ひざまづいている武士をおもむろに見下ろすと、きびきびとした口調で答えを返す。
「すぐに予の御座所へお通しせよ。」
それだけ言うと、輝元は、しゃんと背筋を伸ばして歩きだす。
先程からのしどけない風情とは打って変わり、心なしか、顔の赤みまでひいたように見える。
御座所に入ると、待つほどもなく、廊下から足音が聞こえ、スッと襖が開かれた。
最初のコメントを投稿しよう!