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「では、さっそく使いを立てて、吉川の伯父上にお知らせしましょう。しかるべく手を打っていただくのです。」
輝元が次の間へ続く襖を振り返る。
「誰か在る。」
隆景は、手を挙げてそれを制した。
「まあ、待たれよ!」
「何故じゃ?」
輝元は、途端に不安げな顔になる。
「叔父上には、何ぞ不都合でもあると申されるか?」
「考えてもみよ。これを兄上に伝えなば、どうなると思し召すか。」
「吉川の伯父上ならば、武田高信に助勢して、直ちに軍勢を率いて因幡国の境を越えましょう。」
「それでは困るのだ。」
「何故困るのじゃ?」
「殿にはお忘れか?尼子家は、織田家と結びついておるではないか。」
隆景が、眉間に神経質なシワを寄せた。
「今、織田家と事を構えるわけにはゆかぬのだ。」
「ううむ成る程、そうであったな。…確かに叔父上のおっしゃるとおりじゃ。」
輝元は、柔らかそうな顎ひげをひねって考え込む。
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