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「……はぁ」
肩を落とす菊池。やっと本音を話すつもりになったのだ。太一も掴んでいた手を話し、菊池もさっきまで座っていたソファの背もたれに腰を降ろした。
「実はな、試合といっても練習試合なんだが、その相手が神高なんだよ」
「あー……」
神高。神代(かみしろ)高校の略称だ。桜の近くにある公立高校で学校としてのレベルは桜よりも高い。
そこの剣道部の顧問が菊池にお熱で、なにかと練習試合を申し込んでくるのである。
「顧問としては部員にもいい刺激になるからかまわないんだが、オレ個人としちゃ適わないんだよ」
しかも、とさらに菊池の表情が暗くなる。
「申し込んできた時にプロポーズしてきやがったんだ。断ったんだがホテルに女連れ込もうとする男みたいにしつこいんだよこれが。んで、あんまりしつこいから賭けをすることになってな」
「賭け?」
「明日の練習試合でオレが勝ったらもう言い寄ってくんなってことにした」
嫌な予感しかしない。
「……ちなみに負けたら?」
「あのボケと籍入れにゃならん」
はぁ、と太一はため息をついた。
「完全に自業自得じゃないですか。なんで俺がそれに巻き込まれないと──」
「オマエはいいのか!? 俺があのボケと同じ布団で寝て夜伽をさせられることになってもいいのか!?」
半分泣きそうになりながら太一に詰め寄る菊池。正直、太一としては菊池が誰とまぐわろうとかまわないのだが、姉にも等しい存在である菊池が嫌な目に合うというなら助けるのも吝かではない。面倒臭いと思いつつも仕方なく太一は頷いた。
「わかった、わかりました」
「やってくれるのか!」
「そこまで言われてやらないほど鬼じゃないですから」
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