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しかし依川家と天神家はかなり近い。少し歩くと天神家へ到着した。なんとなく見上げれば西の空に雲が見え、明日は一雨来そうだななんてことを考えつつ玄関の戸を引く。
「ただいまー」
普段通りの言葉で家へと入る。途端に家のの奥からドタバタと足音がやってきた。
「お兄ちゃん!」
「太一!」
リビングから駆けてきた母親と妹を見、太一は首をかしげる。唯はいいとして、まだ仕事中のはずの瑞穂がなぜいるのかと思ったのだ。そんな太一の心を読んだのか唯が説明した。
「翔平さんからメールがあったのよ。お兄ちゃんが急に学校に振ってきたって。いみわからなかったけど、それでお母さんも仕事を途中で切り上げてきたの」
「なるほど」
「それより……!」
ずいっと太一に近づき靴も履かずに下へ降りた唯が太一の胸倉を掴み上げた。前髪が顔に目にかかり唯の表情はよく見えない。
「なんなのよ、あのメール……」
低く押し殺した唯の声。それは唯が激情を堪えている時のものだった。わずかに太一の胸倉を掴む手が震えているのがわかる。
「またなって、まるでもう会えないみたいなメールして……お兄ちゃん、どっか遠くに行って帰ってこなくなるかと思った……。死んじゃったのかと思ってた……」
「唯……」
「翔平さんからメール来て、わたし、すぐにお兄ちゃんに電話したのに、繋がらないし……。期待しながら不安に押し潰されそうで……!」
(まただ)
太一は小さな存在を見下ろし、歯を食いしばる。
(また悲しませた……わかってたことだ。けど)
罪悪感は拭えない。否、拭ってはならないのだ。ひとを悲しませて自分は気にせず、なんてことはあってはならないのだから。
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