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「ちわーす、来てやりましたよ先生」
桜の剣道場に入るなり太一はそう言った。中にいたのは面以外の装備を終えた剣道部員四名とその後ろに防具は着けずに剣道着と袴姿の部員数名、それの正面で剣道着と袴姿で立つ菊池だった。ひとり松葉杖をついている者がいる。あれが例の体育で怪我をしたひとなのだろう。
「おお、遅いぞ太一」
「まだ九時より早いんですけど?」
「細かいこたいいんだよ。おら、コイツが今回の助っ人だ」
部員の視線が集まる中太一は菊池の横へ行きお辞儀をする。
「どうも、天神太一です」
「昨日言った通り今日はコイツが大将でいく。異論があるやつは手を挙げろ」
「大将?」
太一が思わず聞き返した。先鋒辺りがくると思っていたのにまさかの大将とは。部員達も予想外だったのかざわつきだし、それから防具を身につけたひとりがそっと手を挙げろ挙げた。
「なんだ熊沢(くまさわ)」
「どうしてうちの部員から出さないんですか? それにそっちの天神君は中学で剣道をやめてるんですよね? わざわざ助っ人として入れる理由が見つからないんですが」
「あー言ってなかったな。今回負けたら、オレ、あっちの顧問のプロポーズ受けないとならないんだよ。てなわけで絶対に負けられないんだ。んでコイツは強い。以上」
「そんな……」
適当な、と熊沢と呼ばれた部員は言おうとしたが、そこへ神高の剣道部が到着した。先頭を歩くスーツを来た男がにやにやと笑いながら菊池のもとへ行く。
「どうも、菊池先生。本日はよろしくお願いします」
「ずいぶんとお早いお着きですね。予定では九時半にいらっしゃるはずですが」
菊池は基本的に大雑把な男口調だが、礼儀を必要とするところではきちんと態度を弁える。生徒のことも親身になって考えるのである意味理想的な教師である。
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