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太一の胸元に指を差す。左胸には人魚の紋様が描かれている。クレスレット学園の園章だ。
「コスプレなんかして……オマエはそういう趣味なのか? よくわからん字が書かれてるし」
「わからん?」
「ああ、ここだここ」
人魚の絵の下に書かれたなんらかの羅列を示す菊池。太一もそれを見、なにかあったのか眉をひそめた。それから顔を上げ、
「かっこいいでしょう?」
「校則違反だバカ」
にやりと不敵に笑ったところで頭をはたかれる。
「まあいい。本題はこったからだ」
「……」
さっきクラスの男子の言ったことだろう。太一はどう答えようかと身構え、
「オマエ、明日の剣道の試合に出ろ」
「……へ?」
本日二度目の「へ?」である。まったく話が読めず太一は目が点になる前で菊池は顔をしかめた。
「いまのでわかるように、明日は剣道の試合がある。そしてウチの部がそれをするわけだ」
「はあ」
「けど試合目前の一昨日に体育で足をくじいたバカがいてな。それが団体戦メンバーだったわけだ」
「ほお」
「つーことでよろしくな」
「いや待て」
そそくさと退散しようとする教師の腕を掴んだ。
「話が急過ぎです。他にも部員がいるでしょう? なんで俺なんですか」
「団体戦メンバーは五人でみんな三年、んで残りの部員は一二年のみ」
「つまり気後れしてやりたがらないと」
「その通りだ。だからよろ──」
「それで本音は?」
話を遮られ渋い顔になる姉弟子を太一はじと目で見る。菊池桃夏はそんなことで諦めるような人間ではない。むしろやる気ないのかこらなどとキレて無理矢理出させるはずだ。そうしないということはメンバーの補充よりも、むしろ太一を試合のメンバーに入れるという目的のほうが強いということになる。
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