第一編『剣道部顧問強要、菊池桃夏』

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 太一の胸元に指を差す。左胸には人魚の紋様が描かれている。クレスレット学園の園章だ。 「コスプレなんかして……オマエはそういう趣味なのか? よくわからん字が書かれてるし」 「わからん?」 「ああ、ここだここ」  人魚の絵の下に書かれたなんらかの羅列を示す菊池。太一もそれを見、なにかあったのか眉をひそめた。それから顔を上げ、 「かっこいいでしょう?」 「校則違反だバカ」  にやりと不敵に笑ったところで頭をはたかれる。 「まあいい。本題はこったからだ」 「……」  さっきクラスの男子の言ったことだろう。太一はどう答えようかと身構え、 「オマエ、明日の剣道の試合に出ろ」 「……へ?」  本日二度目の「へ?」である。まったく話が読めず太一は目が点になる前で菊池は顔をしかめた。 「いまのでわかるように、明日は剣道の試合がある。そしてウチの部がそれをするわけだ」 「はあ」 「けど試合目前の一昨日に体育で足をくじいたバカがいてな。それが団体戦メンバーだったわけだ」 「ほお」 「つーことでよろしくな」 「いや待て」  そそくさと退散しようとする教師の腕を掴んだ。 「話が急過ぎです。他にも部員がいるでしょう? なんで俺なんですか」 「団体戦メンバーは五人でみんな三年、んで残りの部員は一二年のみ」 「つまり気後れしてやりたがらないと」 「その通りだ。だからよろ──」 「それで本音は?」  話を遮られ渋い顔になる姉弟子を太一はじと目で見る。菊池桃夏はそんなことで諦めるような人間ではない。むしろやる気ないのかこらなどとキレて無理矢理出させるはずだ。そうしないということはメンバーの補充よりも、むしろ太一を試合のメンバーに入れるという目的のほうが強いということになる。
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