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『……ん、なんだ? 体が勝手に……動いてる』
何かを考える間もなく、誰かにぶつかってしまい焦る勇だったが。
『あ、すいません!
あれ? ぶつかったのに相手は何も言わねえな。
しかも俺と同じカバンだ』
しかし、その体は何一つ言葉は勇の声は音にならず虚しいものに。
『おい、体! 謝るぐらいしろよ!!
……てゆーか、一体何がどうなってんだよ? 少し冷静に……冷静に考えろ。
……ん、どうやら住宅街を歩いてるみたいだな』
少し急ぎ足程度の速さでよどみなく歩く体だったのだが、何かあったのか急に立ち止まった。
『止まった?』
すると体は突然後ろを振り返り、警戒するのだが再び前を向き歩き出そうとした瞬間。明らかに自らに向けられた視線を感じもう一度振り返った。
しかし、そこには誰もいない。
『今、確かに誰かがこっちを見てた』
今の視線には勇も気づいたらしく、気味悪いの空気を感じた。
そして、体は先ほどのペースよりもさらに速く今にも駆け出しそうな速さで再び歩を進める。
『さっきよりかなり速いペースだな。にしてもやっぱり誰かに見られてる感じが……』
不自然な感覚を神経をとがらせた途端だ、不気味な足音の存在に気づいたのは勇……だけではなかった。
『やっぱり誰かにつけられてる!?』
辺り一帯、それもこの一角だけを異様な雰囲気が包み込んだ。
『嫌な予感が…………する』
勇の不安はだんだんと階段を駆け上がるように増してゆき、それは恐怖に変わる。
さらに早くこの異様な空間から抜け出したい勇の意思とは裏腹に突然、まるで腹をくくったように体は立ち止まり、ゆっくりと振り返ろうとした。
『………………駄目だ! 止まっちゃ駄目だ!! 駄目なんだ……止まっちゃ…………』
緩やかに首は後ろへと向いていく。
『やめろぉぉーー!! 振り向くなぁぁぁぁーーーー!!』
そして、完全に後ろを向いてしまう。
『あ、あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!』
「きゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
重ならない二つの叫びが二重奏する。
声から判断したのか体が女であることに気づいた勇だが、そんなことは今はどうでもよかった。
彼らの目の前には黒コートに身を包み黒い帽子をかぶり、2mを越える怪人。
『逃げろ! 逃げろ! 逃げろぉぉーーーーー!!』
勇は心の中で決して届かない叫びを続けた。
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