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「はぁ、はぁ……後少し」
勇は息を切らしながらも住宅街を韋駄天の如く駆けぬけていく。
そして、記憶のイメージをたどって一番最後の角を曲がりきった。
すると、そこには何ら変わらず普通に女子高生が一人歩いていた。
「ふぅー……よかったぁ」
安堵の息をもらした勇だが、彼は忘れていた。
今まさに彼女がそこにいるというだけでも、彼のヴィジョンは紛れもない真実を映していた裏付けになるということを。
この後の惨劇が起こりうる可能性があるということを。
……無事な姿を確認でき、当初の目的を達成した勇はやっと冷静さを取り戻し置き去りにした二人の元へ帰ろうとした。
彼の足が後ろに向こうとした、その時「おーい、勇ー!!」と彼を呼びながら麗次が走ってきていた。
「おー、麗次ー!? それに光太まで」
「はぁ……いきなり、どこ行くんだよお前は」
麗次は息をきらしながらも勇に語りかけるのだが、光太の方はあまりにも疲れたらしく言葉は発せず、勇を睨み付け今にも怒鳴りそうな様子だ。
「ゴメンゴメン……でも、もう大丈━━っ!?」
「きゃゃぁぁぁぁあーーーー!!」
突如、住宅街に断末魔にも似た叫び声が響き渡る。
三人は互いに顔を見合わせると、すぐにその叫び声の方へ向かった。
「な、なんだ……あれ?」
再び、勇が曲がり角を曲がった先に見えたのは先程のヴィジョンで見たままのヤツ。
黒のロングコートに身を包み顔も見えず、ただ不気味な巨体がそこに佇んでいた。
「クソッ!! 逃げろ!逃げろぉぉぉぉぉーーー!!!!!!」
勇は叫んだ。もう無駄と知りながら。
そして、生々しく刃が肉を貫く音と共に少女の足は肉体から失われた。
「い、いやぁぁあーーーーーー」
「おいおい……嘘だろ?」
麗次の声は震えていた。
「もう……駄目だ」
勇はそう呟きながらも必死に足を動かそうとするのだが、両足は恐怖にうち震えて微塵も前へ動きはしなかった。
「ちくしょぉぉー!! 動きやがれこのやろぉぉぉぉお」
「ゆ……勇」
「あ……あぁ、やめろよ……やめてくれよ! やめてよぉぉぉぉ」
光太は突然泣き叫んだ。あまりの恐怖に錯乱していた。
しかし、少年達の願いも虚しく刃は終わりを振り下ろす。
そして、三人を前に再び描かれた。
美しくも残酷な紅い月。
横たわる少女を紅く包み込んだ。
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