悪夢

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町外れにある小さなこの工場は音が反響しやすく、何とも不気味な雰囲気をかもし出す。  しかし、夜は静寂なはずのここで今にも騒がしく叫び、助けを呼び、一刻も早くこの場から逃げたいと願う男がいた。  だが、男はすぐ目の前にまで突き付けられた“死”の刃に恐怖し、まともな言葉も出せないほどにその身をうち震わせていた。  「あ、あ、あぁーー」 男は情けない声を出しながら腰をぬかしてしまった。 それでも男は両腕を使って必死に後ろへ……後ろへと逃げる。 近づいてくる恐怖。 彼に向けられた刃。 月光に輝く鋭い刃は止まるはずもなく迫る。  そして、次の刹那。 恐怖は現実となり彼の皮を突き破り肉を断つ。 「ぎぃやぁぁぁぁぁぁあーーーーーーー!!」 彼は最後の声を……恐怖と後悔に満ちた断末魔として、この場にこの漆黒の夜空に響かせた。  黒コートに身を包んだ不気味な怪人は男に突き刺したナイフはゆっくり引き抜いた。 ポトッ、ポトッ、刃の先からと彼の血をしたたらせて……。 その場に残された男の体からは大量の血液が流れ、それを中心に血は広がり、少しずつ円をかたどる。  それはまるで………… ━━紅い月のように。  朝日のさしこむ部屋で、悪夢にうなされる少年は恐怖のあまりに飛び起きた。 「わぁあ!?はぁ、はぁ、」 困惑する思考を落ち着かせ理性を取り戻そうと息を整える少年。 「なんだよ今の!? 夢……夢だよな…………あー、気分最悪!!」 そして、沸き立つ疑問と所詮は夢と思う普通の考え。 やっと、少年が落ち着くといきなりドアが開き。 「勇! 早く着替えてご飯食べないとまた遅刻するよ!!」 バン!、少年を起こしにきた母は少し苛立っていたらしくドアを荒々しく閉めた。 少年の名は“勇”。 「ったく、いつも小言ばかりだな本当に一回でいいから何も言われない日が欲しい…………」 服を着替え、食事をすませると少年は早々と玄関に向かった。 「いってきまー」 「しゃきっとしろー!」 「はいはい」 勇は家から二十分程でつく高校へ徒歩で通学していた。 勇は校門を閉めるチャイムと同時に遅刻ギリギリで校内へすべりこんだ。
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