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と、シンディの背中に衝撃。誰かとぶつかったようだった。
「すみません」
慌てて振り返ると赤い花の蕾のようなドレスを着たブルネットの美女。
少女と言うには身長が少し高く、しかし顔はまだあどけない。
「こちらこそすみません。急いでいるので失礼します」
彼女はそう言うとドレスの裾を持ち上げて慌てた様子で劇場の裏へと消えていった。
「・・・」
「・・・大丈夫ですか?」
劇場の裏の方を見つめていたシンディ。ディックの言葉で我に返って来きた。
慌てて一回頷いた。
その拍子に、足下で何かが光ったのが目に入った。
「・・・これって・・・」
金魚草が象られた金のペンダントが足下に落ちていた。
先ほどぶつかった美女が落としていった物だった。
シンディはペンダントを拾い上げた。
―もし、あの子が劇団員で今からの公演でこれが必要だったら・・・
そう思いながら、劇場裏へと目をやった。
「あの、ディックさん!」
「はい?」
「コレ、さっきの方が落として行かれたんです。すぐ戻りますので待っていてください!」
ディックの返事を待たずしてシンディは劇場裏へと走って行った。
表ではならんでいた大勢の人々でにぎやかだったが、裏に回ると証明もほとんどなく静かで、別世界だった。聞こえてくるざわめきが更に寂しさを増幅させる。
その暗い静寂の中をシンディは走った。
「あ・・・」
目の前にランプを持ったさっきの美女。
「またお会いしましたね」
美女は首を少しかしげながら笑った。
「あの・・・これ・・・」
シンディは息を切らしながら彼女にペンダントを差し出した。
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