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「足下、お気をつけてください」
多くの客が席につき、場内の明かりも薄暗くなっていた。
小さな段差はほとんど確認できない。
ディックに案内され最前列の端の席へ腰を下ろした。
「・・・」
無言であたりを見回した。
初めて入った劇場。高い天井と魚の鱗のように並んだ客席、薄暗い室内と小さな闇。それから、大きな舞台。
深紅のカーテンが舞台の縁ぎりぎりまで降りてきていて奥行きは分からないが幅の広さから推測は出来た。
シンディは思わず息をのんだ。
リリリリッ・・・
鐘の音が室内を走り、声量が小さくなった。
「はじまりますよ」
いつまでも口を開けているシンディにディックは微笑みを浮かべながら声をかけた。
顔を赤くしながら舞台に目をやった。
ちょうどカーテンが開いた。
劇場内を見たときよりも悠に大きな感動が押し寄せてきた。
演目。
“ロミオとジュリエット”
舞台はイタリアのヴェローナ。
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