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『おや、言っておりませんでしたか…?』
とぼける用な口調に思わず舌打ちをする。
『すみません。そんなに痛みましたか。よかったですね。』
慰めるような笑みに腹がたって、アヤベの胸ぐらを掴んだ。
『なんやねん。よかったて。』
『だってそれ、契約者が絶命時に感じるはずたった苦痛ですから。』
俺の睨みに全く屈しないアヤベの言葉に俺はゆっくりと手を離した。
『……そっか。そら、よかったわ…。ほんまに。』
最期にやっと、あいつの苦しみを肩代わりできたんやな。
俺はふっと笑うと、髪をくしゃりと掴んだ。
やっと…あいつに譲れる。
幸せを。
『はよ、殺してくれや。』
『最期に契約者の方に言伝てをいたしましょう。何か伝えたいことは…?』
『……今まで、すまんかった。幸せんなってくれな?ほんまに…。』
言葉、届きました。
アヤベはそう言うと俺の肩をつかんでベッドに押し倒した。
『なんやねん、俺そんな趣味ないで?』
俺がにやりと笑うと、アヤベもにやりと笑った。
『生憎、私にもそのような趣味はございません。では、長い間ありがとうございました。いつかまた、どこかで……。』
アヤベがマントをひるがえして姿を消した瞬間、世界に音がもどり、時は再び進みだした。
もちろん、息の苦しさも。
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