雪降る夜に

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苦しい。 苦しい。 『藤原さん!聞こえますかー!藤原さん!』 聞こえとるわ。 この状況で返事できると思うんかぼけ。 なんて、口に出して言えるわけもなく… ピーポーピーポーとけたたましいサイレンをならし続ける救急車にガタンと乗せられた。 ドアが閉まる直前、救急車を呼んでくれた友達の心配そうな顔がちらりと見えた。 あの顔や。 いつもいつもまわりにあるのは、心配そうな顔。同情した顔。憎悪に歪む顔。 どれもこれも全部この体のせいや。 『藤原さん聞こえますかー?マスクつけますねー!藤原さん喘息持ちかなー?』 全く酸素が入ってこず、ゼィゼイと荒く息をしとった俺はコクコクとうなずく。 『そっかー苦しいねー!酸素いれるからちょっとまってね!』 サイレンとエンジンの大音量に負けじと声を張り上げる救急隊員の声も、なんとなくしかはいってこない。 目の前がチカチカする。 どんなに口をあけても息を吸っても一切酸素が入ってこん。 あまりの苦しさに服のあちこちを掴んで引っ張るもんやから制服のシャツのボタンのいくつかは取れてどこかへ飛んでいってもうた。
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