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一瞬その言葉の意味がわからず、俺はバカみたいに口をポカンと開けたままだまりこんだ。
『では。いつかまたどこかで。』
そう微笑んで俺を一瞥し、マントを翻すアヤベを見てようやく今の言葉の意味を理解した瞬間。
気づけば俺の手はアヤベの腕を咄嗟につかみ、口は勝手に動いていた。
『か、変わりに俺が死ぬ!!!』
アヤベの動きが止まる。
俺に背中を向けたままのアヤベが口を開いた。
『………本気、ですか?』
その声は、心が凍るほど冷たかった。
『お、おん…お、俺、が…変わり、に……』
なんやさっきまでとちゃうアヤベの空気に、怖じ気づいて震える声を絞り出す。
なんやこれ。
なんで、こんなことになってんねん。
今日はあいつの大切な日で、あいつは大切な人と大切な時を……
そうや。
俺が、邪魔したらあかん。
今日こそは。
『そんなに怯えて。覚悟が決まってないじゃないですか。一時の同情で暴走すると痛い目みますよ。以後、気を付けた方がいい。では…』
アヤベは背中をむけたままマントに手をかけて、マントを翻そうとする。
『ま、待て!まってくれ!本気やから!頼む!あいつを殺さんといてくれ!!』
俺がもう一度叫ぶと、アヤベは今度は振り向いた。
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