その1

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幸平が父親と認識している製作者の話を、大和田はしたがらない。 余程機嫌がいい時や、酒が入って若干口が軽くなっている時に、父と大和田が学生時代からの友人であることや、その時の思い出を話してくれたこともあったがそれもほんの少しで、父が今どこで何をしているのか、何故自分を『やまと』に預けたのかなどは知らない。 聞こうとすると意図的に逸らしてしまい、時には先程のように強制的に終了させてしまう。 (俺、ただ父さんのこと知りたいだけなのに…) 何故それが駄目なのだろう? 「…じっちゃん、」 幾度も思いながら今まで口にしなかった疑問を今日こそ聞こうと、幸平が口を開いた。 だが、それを遮るようなタイミングで、出入口の引き戸が音を立てた。 幸平は問いを中断して、即座に出入口の方に顔を向ける。 「あ、いらっしゃいませー!」 入ってきたのは顔馴染みでない、新規の客だった。 癖のないセミロングの黒髪に、透き通った海のような氷色の瞳を持つ、長身の女性だ。 引っかけるように羽織ったベージュのコートと、冬の時期に着るには寒々しくも見える白のジーンズという簡素な服装ですら、彼女を際立たせる材料にしかならない、かなりの美人に分類できる整った顔立ちをしているが、同時に人形のような無表情がミステリアスな雰囲気を纏わせている。
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