その1

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「うん。それぐらいあるといい。」 「すごい飲むんだね…」 「うん。」 「幸平!注文たまっとるぞ!」 「ああごめんじっちゃん!それじゃ、ちょっと待っててね?」 叱責の声に肩をすくめつつ、幸平は女性に言いおいてカウンターを離れた。 そんな幸平の様子を、女性は何ともなしに眺めている。 「…お前さん、アームズ(戦闘用アンドロイド)か?」 カウンターの向こうから、鍋を振る手は休めずに大和田が問う。女性は視線を幸平から大和田に移した。 「戦闘仕様の個体が、監視者もつけずに一人で歩いているわけがないだろう。」 そう言って女性は首を傾げてみせる。笑みでもこぼせば自然な仕草だが、やはり女性は無表情のままだ。 「この辺は『野良』もちょくちょく見かける。」 大和田は女性の言い分に即答する。 時折ではあるが、戦闘用アンドロイドが任務以外で何らかの事故や自分の意思で、監視者や所属している研究機関の元を離れて単独で行動している事例がある。 そういった戦闘用アンドロイドは『野良』と呼ばれ、見つかれば即刻保護もしくは『処分』される。 「仮に私が『野良』だとしたら、人通りの多い商店街の定食屋で、のんきに昼食をとったりしない。それに、」 そこで言葉を切り、女性はようやく表情を変えた。
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