その1

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「アームズなら、通報されてもすぐさま逃げればいいだけの話だ。」 瞳の色と同じ、氷のような冷たさを感じる薄い笑み。 その笑みは表情を変えたというよりは、意図的に表情を作ったという表現の方が正しいかもしれない。 「……」 「おまたせしましたー!」 挑発的な言葉を投げる女性に、口をヘの字に曲げた大和田が言い返すよりも早く、幸平が水の入ったピッチャーを持ってきた。 「ってじっちゃん、ひなちゃんにいつまでしゃべってんだって言っといて、自分だっていっぱいしゃべってんじゃん!」 「お前とひなは手が止まるから言っとるんじゃ。ほれ、Bランチあがったぞ。とっとと持ってけ。」 「はーい。」 「出したら洗い場に入るんじゃぞ。」 できあがった料理を持って席に向かう幸平の背中に言葉を投げて、大和田は女性に視線を戻し、 「…………」 思わず調理の手を止めて絶句した。 うっかり大和田と同じ光景を目にした周囲の客と日向も、呆然とした表情で絶句している。 「うわー…お姉さんすごっ!」 一人絶句ではなく歓声を、振り返った幸平が上げる。 店内の注目を浴びている女性は、歓声も視線も何ら気にすることなく、ピッチャーから直接水を一気飲みしている。 なまじ顔立ちが整っているだけに、その光景は大分異様だ。 「……ふう。」 周囲の視線を完全にシャットアウトして、女性は空になったピッチャーをテーブルに置いた。 表情はやはり無表情のままだったが、ため息には満足げな、先程とは違う作り物でない感情があった。 「すっごいお姉さん!大道芸人!?」 惜しみない拍手を送ってくる幸平に、女性は無表情のまま当然のように答えた。 「ただのアンドロイドだ。」
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