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「アームズなら、通報されてもすぐさま逃げればいいだけの話だ。」
瞳の色と同じ、氷のような冷たさを感じる薄い笑み。
その笑みは表情を変えたというよりは、意図的に表情を作ったという表現の方が正しいかもしれない。
「……」
「おまたせしましたー!」
挑発的な言葉を投げる女性に、口をヘの字に曲げた大和田が言い返すよりも早く、幸平が水の入ったピッチャーを持ってきた。
「ってじっちゃん、ひなちゃんにいつまでしゃべってんだって言っといて、自分だっていっぱいしゃべってんじゃん!」
「お前とひなは手が止まるから言っとるんじゃ。ほれ、Bランチあがったぞ。とっとと持ってけ。」
「はーい。」
「出したら洗い場に入るんじゃぞ。」
できあがった料理を持って席に向かう幸平の背中に言葉を投げて、大和田は女性に視線を戻し、
「…………」
思わず調理の手を止めて絶句した。
うっかり大和田と同じ光景を目にした周囲の客と日向も、呆然とした表情で絶句している。
「うわー…お姉さんすごっ!」
一人絶句ではなく歓声を、振り返った幸平が上げる。
店内の注目を浴びている女性は、歓声も視線も何ら気にすることなく、ピッチャーから直接水を一気飲みしている。
なまじ顔立ちが整っているだけに、その光景は大分異様だ。
「……ふう。」
周囲の視線を完全にシャットアウトして、女性は空になったピッチャーをテーブルに置いた。
表情はやはり無表情のままだったが、ため息には満足げな、先程とは違う作り物でない感情があった。
「すっごいお姉さん!大道芸人!?」
惜しみない拍手を送ってくる幸平に、女性は無表情のまま当然のように答えた。
「ただのアンドロイドだ。」
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