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「ちぇ…月が見えないや…」
拗ねたように口を尖らせながら、幸平はのれんと看板を下げる。
晴れた夜にぽっかりと浮かぶ月を見るのは好きだ。
以前思わず、「おいしそう…」と呟いて日向を大いに呆れさせたこともあるが、それ以上に夜空を照らす青金の光にはいつも心惹かれる。
「じっちゃーん、看板さげてきたよー。」
言いながら引き戸を閉めると、大和田は難しげな顔で座敷の席に座って何かを読んでいた。
「?」
「誰かから手紙が来たみたい。」
怪訝に思った幸平が声をかけるより早く、テーブルを拭いていた日向が口を挟んだ。
幸平はぱちぱちと瞬きをして大和田と日向とを見比べると、わずかに顔を青くする。
「……きょ、きょーはく文?」
「2時間ドラマの見すぎよ…!」
さらりと非日常な単語を漏らす幸平の背中を、日向が呆れ返った面持ちで叩いた。
反動でよろけた幸平だが、持ったままだったのれんを杖代わりにして転倒を避ける。
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