その2

2/12
前へ
/103ページ
次へ
「ちぇ…月が見えないや…」 拗ねたように口を尖らせながら、幸平はのれんと看板を下げる。 晴れた夜にぽっかりと浮かぶ月を見るのは好きだ。 以前思わず、「おいしそう…」と呟いて日向を大いに呆れさせたこともあるが、それ以上に夜空を照らす青金の光にはいつも心惹かれる。 「じっちゃーん、看板さげてきたよー。」 言いながら引き戸を閉めると、大和田は難しげな顔で座敷の席に座って何かを読んでいた。 「?」 「誰かから手紙が来たみたい。」 怪訝に思った幸平が声をかけるより早く、テーブルを拭いていた日向が口を挟んだ。 幸平はぱちぱちと瞬きをして大和田と日向とを見比べると、わずかに顔を青くする。 「……きょ、きょーはく文?」 「2時間ドラマの見すぎよ…!」 さらりと非日常な単語を漏らす幸平の背中を、日向が呆れ返った面持ちで叩いた。 反動でよろけた幸平だが、持ったままだったのれんを杖代わりにして転倒を避ける。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加