その2

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「もう、こんな時に…はーい!今出まーす!」 興を削がれたと言いたげにため息をついて、日向が出入り口へ向かう。 「っ?」 その時幸平は、奇妙な感覚を覚えた。 説明のできない違和感が体にまとわりつく。自分の中で何かが噛み合わない。 何となく、幸平は出入り口の引き戸を見た。いつもと変わらない。 きっと、引き戸の向こうには声の持ち主が立っているのだろう。 昼間見たであろう、客の一人。 (……違う…!) 何でもないと思いかけた幸平は、違和感の正体に気づいた。 引き戸の向こうにいるのは一人ではなく、もっといる。 そして、その先頭にいる一人から、幸平は『駆動音』を聞き取った。 「っ!ひなちゃん!ダメだ!!」 「え?」 叫ぶと同時に幸平は動いていた。 怪訝そうに振り向いた日向を抱えて飛び退いた時には、引き戸が派手な音を立てて吹っ飛んだ。 木枠の折れる音と、ガラスの砕け散る音が店中に響き渡る。 「………!?」 「な、な、なん…」 突然の事態に、大和田が呆然も混じった険しい表情で立ち上がり、幸平に抱えられたままの日向は言葉にならない声を漏らす。 「こんばんわ。」 半ば混乱している店内と対照的に、その男は悠然と引き戸を踏み越えて入ってきた。 黒のフード付きのコートをきっちりと着込み、夜だというのに真っ黒なサングラスをつけた長身痩躯の男は、幸平の姿を認めると薄い笑みを口元に張り付けた。 「忘れ物を…君を回収しに来ました。望月幸平君。」
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