その2

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「逃がすさ。」 冷水のような声が乱入したのは、蛇男が怒鳴り幸平が悔しげに歯噛みした直後だった。 同時に窓の一つが砕け、その砕いたものが蛇男と数人の黒服を『押し流した』。 「なっ…」 「えぇっ!?」 大和田と幸平が呆然と目を丸くしている間に、蛇男を押し流した『水柱』の後から誰かが窓から入ってきたかと思うと、周囲を取り囲んでいた黒服を流れるような連続蹴りで叩き伏せ、あるいは手刀の一発で意識を刈り取っていく。 黒服達をあっと言う間に全滅させた乱入者は、長身の女性だった。 癖のないセミロングの金髪に、鋭い氷色の瞳。引っかけるように羽織ったベージュのコートと、冬の時期に着るには寒々しくも見える白のジーンズという簡素な服装ですら、彼女を際立たせる材料にしかならない、かなりの美人に分類できる整った顔立ちをしているが、同時に人形のような無表情がミステリアスな雰囲気をまとわせている。 「…昼間の…」 それは、黒髪と金髪という違いはあるものの、昼間に最も目立った行動をした新規客の一人だった。 女性は、感情の映っていない目で幸平を一瞥すると、一言だけ言い放った。 「逃げるぞ。」 「…え?あ、うん!じっちゃん!」 はっと我に返った幸平は日向を抱え上げ、大和田を促しながら立ち上がって、さっさと先行した女性の後を追った。 「……く…油断しましたね…」 三人分の足音が遠ざかるのを聞きつつ、男が頭を振りながら起き上がった。 今は蛇の特徴は、手や顔にわずかに鱗が張り付いている程度に収まっている。 「弱小組織のポンコツ風情が…お前達、いつまで寝ているつもりです!さっさと追いますよ?」 周囲でまだ倒れている部下達を文字通り叩き起こしながら、男は忌々しげな声とは裏腹に笑みを浮かべた。 「何としても、私が『フレイム・ソウル』を回収してみせますよ…!」
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