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二河市は、その名の通り二本の大きな川が流れている都市である。
市の中心を流れている藤環川(とうかんがわ)と、都心との境を流れる京葉川に挟まれている南側。
京葉川近くにあるその端に田荷木町(たかぎまち)商店街はあり、商店街の外れの小さな旧街道を渡った先に、定食屋『やまと』はある。
「いらっしゃいませー!」
何枚も重ねた空の食器を持ったまま、幸平は出入り口の開いた音を聞くとすぐさま笑顔で振り返った。
癖のある黒髪に、赤みがかった黒の瞳。背は低くはないが男にしては丸い目と、少年のようなあどけなさのある顔立ちが、彼を一回りほど小さく見せている。
「じっちゃん!塩焼き定食二つ!いっこご飯大盛りで!」
「あいよ。」
「幸平くーん!注文いーい?」
「あ、はーい!」
昔ながらの定食屋そのものといった店内を、幸平は楽しそうにかけずり回る。
その様子を『やまと』の常連客達は微笑ましそうに眺め、無邪気な笑顔に新規の客も思わず破顔する。
「いやー、幸平君がここにきて、もうすぐ一年か…」
カウンター席を定位置としている常連の一人が、頬杖をついて感慨深げに息をつき、カウンターの向こうの店主を見やった。
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