その1

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二河市は、その名の通り二本の大きな川が流れている都市である。 市の中心を流れている藤環川(とうかんがわ)と、都心との境を流れる京葉川に挟まれている南側。 京葉川近くにあるその端に田荷木町(たかぎまち)商店街はあり、商店街の外れの小さな旧街道を渡った先に、定食屋『やまと』はある。 「いらっしゃいませー!」 何枚も重ねた空の食器を持ったまま、幸平は出入り口の開いた音を聞くとすぐさま笑顔で振り返った。 癖のある黒髪に、赤みがかった黒の瞳。背は低くはないが男にしては丸い目と、少年のようなあどけなさのある顔立ちが、彼を一回りほど小さく見せている。 「じっちゃん!塩焼き定食二つ!いっこご飯大盛りで!」 「あいよ。」 「幸平くーん!注文いーい?」 「あ、はーい!」 昔ながらの定食屋そのものといった店内を、幸平は楽しそうにかけずり回る。 その様子を『やまと』の常連客達は微笑ましそうに眺め、無邪気な笑顔に新規の客も思わず破顔する。 「いやー、幸平君がここにきて、もうすぐ一年か…」 カウンター席を定位置としている常連の一人が、頬杖をついて感慨深げに息をつき、カウンターの向こうの店主を見やった。
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