その1

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だが、その時の状況だけは聞いていた。 「だって」 「ひな!!」 「っ!」 響き渡った大きな怒声に、矛先である日向だけでなく隣の幸平も肩をすくめ、遠くの客も何事かと視線を投げる。 一変した空気に、店内が水を打ったように静まり返った。 「……いつまでくっちゃべっとるつもりじゃ?食器、まだ残っとるぞ。」 「う、うん…」 静かに言い放つ大和田に、萎縮したように肩をすくめて頷いた日向は、そそくさと席に向かう。 客達は何か言いたげに日向を見るが、彼女は「騒がせちゃってごめんなさいね?」と苦笑を返して問いかけを遮る。 「……じっちゃん。じっちゃんって、父さんの話したがらないよね?」 あまりいいとは言えない空気の流れる中、空の食器を洗い場に置きながら、幸平はぽつりと呟いた。 声が聞こえているはずの大和田は、幸平の方を見向きもせず何も言わない。 「…何で?」 「仕事中じゃぞ。」 「お店終わっても話してくんないじゃん。」 ふてくされたように口を尖らせて不満を漏らしたが、幸平もそれ以上何も言わずに食器を洗い始める。
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