――序章――

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手紙の内容を見て、彼は目を丸める。興味深い、と。 「聖杯を奪い合う? はて、何処かで聞いたことがあるな……」 途中で紙を投げ出し、自分の部屋にある本棚を物色し始める。以前そういった類の書物を見たことがあると。 その隙をみて、助手である少女は、紙を拾い上げ、驚愕する。内容を要約するとこうだ。 この町に聖杯なるものが現れるから、君も参加しないか? といった具合だ。 その聖杯とは、一つだが何でも願いを叶えてくれるそうであり、それを奪い合うというものだ。聖杯を叶える為には七人の英霊が必要だと。 更には、本来英霊など召喚などできる訳が無いのだが、聖杯が現れた時にのみ、召喚が可能となるのである。だ、そうだ。少女には少々理解に及ばないモノがある。 少々処か、大方理解不能だ。そもそも魔術の端くれ程度をちょびっと齧った程度では理解できる内容ではないのであるが。それを彼女は知らない。 「ほぉほぉほぉ。おい、セイリン。アレ持って地下室に来い。今からやることが出来た。 悪いが、お前に魔術教えんのは後だ」 書物を本棚にしまい込み、彼女の肩を叩いて部屋を出てしまった。その瞳には、煮え滾る様な勢いを取り戻していた。 今から何が起こるかは全く理解出来ないが、彼の言うことを聞くことが利口だということは確かだ。 いつもそうだった様に。 そうやって、自分のズボンのポケットに手紙を突っ込み、部屋を出る。 結構大きい家だが、大体把握している積もりだ。それでも慣れない場所はある。故にそそくさと、厳重にセキュリティの施された廊下へ足を運ぶ。 廊下の端に作られたセキュリティの解除を行う装置へと近付き、つい最近覚えた解除コードを入力し、瞳をそこへ向ける。 それとほぼ同時、ピーという音と共に廊下を埋め尽くす赤外線が解除される。 セイリンと呼ばれた助手は、その奥へと進み、古ぼけたドアを開け、埃の被った部屋へと足を踏み入れる。
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