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島根県在住の者なら知っているだろう。桜の名所だ。しかし、この桜の名所の山路の先には夜になると顔が変わるトンネルがある。
そのトンネルは現役のトンネルで廃トンネルといわけでもない。車で素通りしても気づきにくいかもしれない。
ここは夜中に車を止め、歩いて通ることでようやくその顔が現れだす。
ここには何度か来た。計3回だ。
そのうちの1回で奇妙な体験をした。
夜中の23時頃だっただろうか?その時は知り合いのTとAと来た。駐車場に車を止め、トンネルへ向かって歩き出した。
「車で通るときとは雰囲気違うね」
そんな話をしながらトンネル内を歩く。
このトンネルにはハイヒールの女性の幽霊が出るという噂があった。見える人には見えるそうだ。当然私は見たことが無い。
トンネルの中心に向かうにつれて、聞きなれない音がする。山の中では聴こえない音だ。
そう何らかの金属音がする。
カンカンカン・・・
ゆっくりと金属の棒と棒を叩くような音だ。音は大きくなったり、小さくなったりしている。しかし、近くでは聴こえない。少し遠くから聞こえるような音だ。
「音がするね」
いつものように興味はあるが何でもないかのような会話が飛び交う。
トンネルの反対側へ出た。音の正体は掴めないが、先ほどから入ったトンネルの入口の方からしているようだ。
戻ってみよう。
そういう話になり、ゆっくりと引き返す。その間も音は断続的に続いた。
入口に近づくにつれて音は弱くなった。
そして入口付近に何か1m程の白いもやみたいな、人の形のようなものが動いた。
「何かいる!!」
私が言ったら、二人が突っ込んでいった。二人に呆れている間にそのもやは消えてなくなっていた。あれが幽霊だったのかはわからないが、今思い出しても赤いハイヒールの女性には思えなかった。単なるトンネルの内外の温度差でできた水蒸気のようなものかもしれない。
音の正体を調べようと丹念にあたりに集中したがとうとうわからなかった。残念がりながら、その場を後にした。
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