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広場のような所に出た。そこには見た限り、30人ほどの人が集まっており、全員が顔を隠すように麦わら帽子を被っている。その下は、神社にいるような神職の服である。灯りもつけずにぶつぶつ何かを言っている。どうやら歌のようだが、変に訛っており、距離も離れているため聞き取れない。どうも怪しげな雰囲気が漂っているので、離れて観察することにした。
動きがあった。真ん中にいた祭司のような人物が両手を挙げると、そこへ荷車のようなものが運ばれてきた。その中には、棺桶のようなものが乗っていた。
「大丈夫。痛いのは一瞬だ。君は神の花嫁となるのだよ。その身の穢れを清めてくださるのだ……」
小さな声だったが、はっきり聞こえた。あまり気持ちのいい話ではない。
「用意!」
祭司らしき人物がそう叫ぶと、先ほど荷車を運んできた男が、今度は大きな円盤を転がしてきた。かつての人類が転がして運んでいた巨大な通貨に似ている。しかし、その側面には大量の刺がついており、こんなもので潰されてしまってはひとたまりもなく、全身が穴だらけになってしまうか、挽き肉のように粉微塵になってしまうだろう。
今、こういった発想をした北斗は後悔することとなる。
あろうことかその円盤型の大岩、先ほどの棺桶目掛けて一直線に転がされているではないか。先ほどの話からすれば、あれには人が入っている。潰されれば死んでしまう。
「やめろ……!」
物影から見ていたのだが、思わず叫んでしまった。それに合わせて村人らしき人々が一斉に振り向く。
「よそ者だ」
「よそ者だ」
「見られた」
「殺せ」
口々に聞こえた。
この場合、どちらに逃げるべきなのだろう。いや、逃げるのではない。まずはあの棺桶の中にいる人物を助けなくては……。
北斗は棺桶目掛けて走り出した。その中にいたのは、赤と黒の花嫁衣装を纏った、黒髪の、とてつもない美女だった。
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