前編

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「これは、失礼。私は本村探偵事務所の本村と申します。」 そういって本村はホームレスに名刺を渡した。 「実は、古い友人から仕事を頼まれまして…。」 本村がそこまで言うと、ホームレスは口を開いた。 「僕が、何か…?」 「どうやらあなたに殺人の容疑がかかっているようで…。」 「ぼ、僕がですか?そんなことしてませんよ。第一、ここ一週間家から出てませんし。」 「それは承知です。ですから容疑と言ったでしょう。確信とは言ってません。」 よく分からないといった顔をしているホームレスを前に、本村は冷静な口調で続ける。 「野村健太郎という男性をご存じですか?」 ホームレスは顔色を変えた。 「大学時代からの親友ですが…。それが何か?」 本村は少し間をおいてから答えた。 「昨晩の21時頃に、野村さんが殺されました。全身7ヶ所を刺され即死だと…。」 「嘘だろ…。」 ホームレスは言葉を失った。しかしそれは野村が死んだからではない。もちろんそれもあるかもしれないが、彼が驚いた理由は他にあった。
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