第一章

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「さぁ、早く朝ごはんにしよう。学校に遅れるぞ」  希実は「はーい」と明るく返事をして、焼けたパンを手に取って苺のジャムを塗っていく。  我が家の朝食はいつもパンやフレークといった簡単なものだ。単純に時間が無いのが一番の理由だが、僕があまり料理は得意でないせいもある。  育ち盛りである希実のことを考えれば、本当はもっと栄養バランスの取れたものにしてあげたいが、なかなかそう上手くいかないのが現状である。 「やっぱり、この苺ジャムおいしいね」 「希実は本当にその苺ジャム好きだね」 「うん、大好き!」  希実の優しさに僕は救われていた。毎回こうして同じ様な朝食にも関わらず、文句の一つも言わずに「おいしい」と笑顔で言ってくれる。  僕のことを気遣ってそう言ってくれているのだろう。希実は本当に優しい良い子に育ってくれていると思う。  パンを食べながら朝刊に目を通す。相変わらずな政治事情や地方問題が書いてある。そんな中、一面を飾っていたのは僕が済む港区周辺で起きているとある奇妙な事件だった。 「またあの通り魔か……」  記事の見出しには『犯人はまた口裂き女!?』と書かれている。  口裂き女が話題になりだしたのはほんの数週間前のことだ。美人の女性を狙った通り魔事件で、殺害された被害者の顔が刃物によって滅多切りにされているらしい。  特徴的なのが、犯人に付いた名前の通り、口を頬の上まで大きく切り裂かれていることである。
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