第一章

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 今朝の事件で被害者の数は四人目。しかも今回は家のすぐそばにある海浜公園で殺されたらしい。  犯人がどんな理由でそんなことをしているのかは不明だが、まともな思考をしていないことだけは確かだろう。 「希実、学校から帰って来たらちゃんと鍵をかけておくんだよ。口裂き女が来るかもしれないからね」  さっきと同じように希実は「はーい」と、返事をした。実際、家の中に居れば襲われることはないだろう。それでも用心しておくに越したことはない。 「ねぇ、お父さん。まだ捕まらないの、口裂き女」 「そうみたいだね。家のそばでも事件が起きてるから、あんまり遅くまで友達と遊んでちゃ駄目だぞ?」 「うん、わかった。それに今日は、陽菜ちゃん塾があるから遊べないんだって」  陽菜ちゃんこと野川陽菜は、隣の部屋に住んでいる希実の同級生だ。明るい性格で希実と気が合いよく遊んでいる。 「お父さん、今日も帰って来るの遅い?」  少し寂しげに希実が呟く。 「わからないな。なるべく早く帰って来るよ」そう答えるのは辛かったが、嘘をついて希実に悲しい思いをさせたくはなかった。  僕はとある出版社で週刊誌の記事を書いている。フリーライターではなく雇われだ。そのため残業をすることも多々あり、あまり希実を構ってあげることが出来ない。  寂しい思いをさせていることは自覚しているが再婚は考えていない。事故から七年経った今も、僕は幸子を忘れられないでいた。
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