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二十一年前、まだ僕が高校生だった頃、郊外のとある小さな町でも同じような事件が起きていた。
今回と同様に、殺された被害者の口が大きく裂かれた通り魔事件。目撃者の話だと犯人は三十歳後半くらいの女性だったらしい。そのことからマスコミは『口裂き女事件』と呼んでいた。
僕の記憶が正しければ、六人もの命を奪ったその犯人は、恐ろしいことに未だ捕まっていない。しかし、事件はいつの間にか治まり、極めて残虐なこの事件も時間が経つにつれ記憶の隅に追いやられていた。今年の春、再び事件が起きるまでは。
今回の口裂き女というマスコミの書き方は、この過去の事件に関連付けてのものだ。知り合いの刑事曰く、二十一年前の事件を真似た模倣犯の仕業だろうとのことだが。
それには僕も同感だった。二十一年前の犯人が今も生きていれば六十歳近い筈だ。そんな年寄りが、これ程まで動き回って連続殺人を犯すとはどうしても思えない。
そんなことを考えていると、平常通りに電車がホームに入ってきた。
車内にいる学生達の会話は口裂き女の話題で持ち切りだった。好奇心旺盛で、こういったミステリアスな話が好きな年頃だ。興味を持つのは当然だ。
僕自身もきっと彼らと同じだった、いや、それ以上だったかもしれない。だからこそ、こうして記事を書く仕事に就いたのだ。
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