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「あら、おはよう」
洗濯をしている母の声を背に居間に入った。
朝食の温かく、優しい匂いがゆっくりと鼻腔を突く。
それに伴い不愉快と正反対に位置する感情が大きく膨らむ。
ついでに空腹を訴える感情も、風船のように急速に膨らむ。
食事目当てにしか居間に入らない飼い猫のリューは、既に定位置についてキャットフードを頬張っていた。
食事目当てで家族の輪に交ざる点は、俺に似ている。
そんな理由で、俺はこいつに親近感を感じているが、多分リューは俺を餌をくれる人間としか見ていないのだろう。
「おはよう」
五十路が近づき、一層頭部が寂しくなった父に、教科書通りの挨拶をかける。
「……おはよう」
相変わらず無愛想な父だと思いながら席についた。
椅子がヒヤリと熱を奪う。
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