23人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねー、聞いてる?」早川さんは彼女の髪の毛を指でくるくるとさせながら、少し不機嫌そうにした。
「もちろん聞いてるよ」僕は慌てて、取り繕う。
「この後のことだよね?」
僕は早川さんに視線を向けたのだけど、見事に目を逸らされた、気がした。
作業は中断。
しばらくの沈黙が続く。
そうなると、黙り込んでいる図書室はとても静かなものだった。
耳を澄ませば、降り注ぐ雪の音さえ、聞こえてきそうな、そんな気配がある。
僕は何か言わなきゃと思い「ところで早川さんはこの後何かあるの? 実は僕も気になってたんだ」と言った。
これは本心だった。
だけど、それを悟られないように、僕は自然体でいることを心がけた。
僕は何でもないそぶりを見せ、再び本を並べ始める。
けれどもそこで、僕は急な不安にかられた。
思いきって言ってみたはいいが、嫌な予感が頭を過る。
案の定とでもいうべきか、早川さんは「無いこともないわ」と答えた。
僕はそれで、胸にぽっかりと穴が開いた感を覚え、深い悲壮の世界に引きずり込まれそうになった。
「そう」と僕は言い、またおもむろに手元の本と向きあう。
その瞬間、早川さんは自分の担当の本棚が終わったらしく、さっと立ち上がり「だって楽しみはこれからじゃない。ね?」ととびきりの笑顔を僕にみせたのだから、僕は何が何だか分からなくなった。
早川さんはそれだけ言うと、奥の部屋へと歩みを進め、残りの仕事を片付けだした。
また図書室は静まり帰る。
風が吹いたのか、図書室の窓のガタガタという音が、室内に響き渡った。
窓に雪の粒がふりかかる。
僕の気持ちを知ってか知らずか、窓から見えるその雪たちは愉快げに乱れ、僕の様子を眺めているようでもある。
最初のコメントを投稿しよう!