雪の光

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 「ねー、聞いてる?」早川さんは彼女の髪の毛を指でくるくるとさせながら、少し不機嫌そうにした。  「もちろん聞いてるよ」僕は慌てて、取り繕う。  「この後のことだよね?」  僕は早川さんに視線を向けたのだけど、見事に目を逸らされた、気がした。  作業は中断。  しばらくの沈黙が続く。  そうなると、黙り込んでいる図書室はとても静かなものだった。  耳を澄ませば、降り注ぐ雪の音さえ、聞こえてきそうな、そんな気配がある。  僕は何か言わなきゃと思い「ところで早川さんはこの後何かあるの? 実は僕も気になってたんだ」と言った。  これは本心だった。  だけど、それを悟られないように、僕は自然体でいることを心がけた。  僕は何でもないそぶりを見せ、再び本を並べ始める。  けれどもそこで、僕は急な不安にかられた。  思いきって言ってみたはいいが、嫌な予感が頭を過る。  案の定とでもいうべきか、早川さんは「無いこともないわ」と答えた。  僕はそれで、胸にぽっかりと穴が開いた感を覚え、深い悲壮の世界に引きずり込まれそうになった。  「そう」と僕は言い、またおもむろに手元の本と向きあう。  その瞬間、早川さんは自分の担当の本棚が終わったらしく、さっと立ち上がり「だって楽しみはこれからじゃない。ね?」ととびきりの笑顔を僕にみせたのだから、僕は何が何だか分からなくなった。  早川さんはそれだけ言うと、奥の部屋へと歩みを進め、残りの仕事を片付けだした。  また図書室は静まり帰る。  風が吹いたのか、図書室の窓のガタガタという音が、室内に響き渡った。  窓に雪の粒がふりかかる。  僕の気持ちを知ってか知らずか、窓から見えるその雪たちは愉快げに乱れ、僕の様子を眺めているようでもある。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加